最終話 ~Lancaster the Conqueror~ †終わりの気配 †ある日、村にお触れが出回った。 「クソ虫ども、皇帝に忠誠を誓う時間がやってきたぞ!」 銃を持たされてお仕着せの制服拵えて、連れて行かれた先はアフリカのチュニスいうところじゃった。 ばたばたと目の前で人が死んでいく。 ~ とある一兵士の人生最後の述懐 ~ 嵐の前触れ †大英帝国は領邦全土から金をばらまいて大量に歩兵を雇い入れた。 大英帝国の傘下に入ることを拒む唯一の国、マールワ王国。 マールワ王国に対し、ジャウンプル、ヴィジャヤナガラ、クジャラートといったインド諸藩に対して大英帝国は多額の資金援助を行なう。 1748年にはメキシコ自治政府の保護下にあったアステカの処遇を巡ってトラブルが起きたが、メキシコ自治政府が直接統治することに合意したことで無事に処理された。 こうして新大陸は小さな原住民部族も含め、1749年には完全に大英帝国の支配下に置かれたのである。 1755年には中東が… 1756年にはアフリカ全土も大英帝国の保護下にあった。 ~ 宮廷歴史家エドワード・ギボン著 「大英帝国興隆史」より ~ 人類最後の戦争 †御歳71、56年目の治世を向かえる老王ウィリアムは未だ健在だった。 「ブルガリア、陥落いたしました!」 「アヴィニョンから降伏の使者が参りました」 「ヌヴェールも臣従の意を示しております」 「ああ…民の声が聞こえる。ランカスターを讃える世界の声が余の耳に鳴り響いておる…」 皇帝は恍惚の表情を浮かべた。 「ランカスターの夢を成就し、余はようやくランカスターの一員になれたのだ」 世界から隔離された玉座の上で皇帝ウィリアムは確かに聞いた。 「征服王ウィリアム万歳!」 1757年8月31日。 ~ 宮廷歴史家エドワード・ギボン著 「大英帝国興隆史」より ~ エピローグ †かつて大きな夢を抱いた一族がいた。 そんな時、大英帝国皇帝はかつてスペイン公国が生み出した地方政府、植民国家の制度を改良して帝国を統治した。 かくして神聖イギリス帝国議会(正式名称、神聖にして唯一の帝国議会及び諸連邦における合同議会)が開設される。 同床異夢の人々へ †世界各地の民衆の代表者達、帝国の遥か辺境からアントワープへの長旅ご苦労。 この議会が開会される前に言わなければならないことがあります。 まず皇帝たる私と貴方達帝国議員の意志は一つではなく夢もまた異なっているという当然の事実を改めて認識してください。 …バベルの塔が崩壊した際、言葉は失われ、他者とわかりあえない故に人は明確な生きる理由を見失いました。 私達人類は改めて言の葉を拾い集めました。 同じ国の同じ民に同じ言葉で語りかけても自らの意志が伝わらないと。 例え自らの言葉に技術の化粧を施しても、見えない何かに阻まれて十全に伝わることのないもどかしさを私は幾度も味わったことがあります。 かつてランカスター家に私と同じ名を持つ一人の偉大な女王がいました。 女王と忠実な騎士の物語、二つの冠を抱いた王の話、幸福にあった女性の深い絶望の物語、偉大なる皇帝位を目指した王達の話、豊かなる五賢帝の時代……そして自らを否定されてもなお世界を求めた征服王の物語。 その書を読んだ時、私はランカスターの夢の住人になることができたのです。 この書は本日の帝国議会が閉会した際に全て公開いたします。 (秘せられたランカスターの記録を惜しげもなく公開するという女帝の言葉に会場はざわめいた) 静粛に……話を続けましょう。 かつて大きな野望を抱いた女王は思いました。 (会場から偲び笑いが漏れる) …貴方達は成すべき夢の大きさに圧倒され、生ある内に夢の実現が不可能であることを悟り、生きる意味を失ったことがありませんか? かつて愛する息子を失い、自らの夢が適わぬことを悟り、途方にくれていた女王がいました。 そんな時、彼女は周りを見渡しました。 先を歩むものは多くの欠点がありながら、誰もが必ず一つは光るものを持っていました。 若きものは夢に溢れながらも厳しい現実に打ちのめされていました。 小さきものはまだ何も知らず、日々を生きるので精一杯でした。 例え自らの生が失われようと、不完全な言葉は受け継がれ、語り合った小さきものたちが夢を膨らませ、いつか適える日が来る。 帝国議員の諸君。 我が一族は勝者の特権を行使し、貴方達に強要します。 貴方達が抱く大きな夢の数々がこの議会で重なり合う時、ありとあらゆる問題は解決されることでしょう。 民衆の代表者である議員諸君が不完全な言葉で存分に語り合い、大きな夢を重なり合わせる瞬間を私に見せてくれるよう願います。 さあ始めましょう! これを持って女王を想う話は終わり、第一回神聖イギリス帝国議会の開会を宣言します。 ~ 皇帝マリー3世・ランカスターの第一回神聖イギリス帝国議会における開会演説より ~ 女王想話 The end …thank you for reading! |