AAR/女王想話

第三話 ~孤高の騎士が示す光~

取り残された孤高の騎士

偉大なる女王が神の元へ旅立たれた翌年、西暦1522年のことだった。

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ペンブルック伯、王位を求めロンドンにて挙兵という知らせが摂政評議会を駆け巡る。
反王派、その動きに呼応してオックスフォードにて挙兵。
女王が突如後継者として指名したジェームズに不満を覚え、ペンブルック伯ジェイコブ・ヘイスティングは反旗を翻した。

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マリー女王治世下による長年に渡る遠征、宗教動乱により国家の財政は破綻寸前。
適齢期の若者がおらず傭兵に頼らざるを得なくなった結果、財政は更に悪化の一途を辿った。

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迎え撃つは「イングランドの盾」レスター伯オリバー・ダドリー元帥。
御歳73の宿将は老骨に鞭打ってこの反乱を鎮圧する。
この機にと独立を求めるモスクワで反乱軍が挙兵したと知れば即座に白い髭を凍らせてバルト海を渡り、国内で信仰改革を求める民が反乱を起こしたと聞けば元帥杖を片手に容赦なく弾圧した。
この活躍がプロテスタントの台頭に苦虫を潰していたローマ法王を喜ばせたのは前述の通りである。

老人は孤独だった。

頼りになる同士に家の事を任せ、生涯を捧げた女王の死と共に老人は生を閉じようとしていた。

「私の騎士オリバーに告げる。正しき信仰の名の下に自害はけして許さない」

宮廷歴史家を通じ伝え聞いた女王からの申し送りが彼を縛った。
女王の命令には絶対服従。
それはマリーの死後も変わらぬオリバーの摂理だったのである。

女王の死後、幼王を輔弼する為に立ち上がった摂政評議会はレスター伯の加入を求めた。
だがその求めをレスター伯は断った。

「何故王国の危機を救ってくださらぬのか」

摂政評議会議長ノーサンバーランド公爵は問い詰めた。
その悲鳴に対し、レスター伯は応えた。

「王に向けられる全ての恨みはこの老いぼれが背負って地獄へ逝く」

これほどの覚悟を見せ付けられ誰が反論できようか。
オリバー・ダドリーの求めに応じて摂政評議会は元帥杖を渡す決断を下す。
反乱鎮圧の為にロンドンを発った騎士は二度と女王が暮らした城に戻ることは無かった。

~ 宮廷歴史家 リチャード・ギボン著「冬の時代」 ~

薔薇は結ばれる

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1523年、財政危機、人的資源の克服を兼ねてフランスは併合された。
この苦難の中「イングランドの剣」の尽力もありフランス閥貴族も同意せざるを得なかった。
その結果、レスター伯の活躍もありイングランドは「教皇後見人」に任命される。

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1526年、反王派の本拠地がロンドンから近いことから摂政評議会は政治機能を国際都市アントワープに移す。
これは神聖ローマ帝国に挑むというイングランドの決意の表れなのではないかと国際社会は噂した。

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フランス併合、アントワープ遷都の二つの決定によりイングランドの財政は改善。
摂政評議会が良く機能し、オリバー・ダドリーが反乱を速やかに鎮圧することで英国はこの冬の時代を耐え抜こうとしていた。

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これはそんな西暦1533年の出来事である。
悲しみに暮れるアントワープの海面を見つめる二人の若者がいた。
さざ波の音が空間を支配する。
穏やかで柔らかい日差しが二人の顔を照らした。

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一人はデイビッド・ハウ。
後にスルタンが「ハウ元帥がいなければコンスタンティノープルが陥落することはなかった」と嘆かせることになる生え抜きの名将である。

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もう一人はヨーク公ジョージ。
かのヨーク家の次代当主であり、ジェイムズ1世の治世下において王の右腕と称される若き御曹司だった。

デイビッドは傍らのヨーク公ジョージにぽつりと呟いた。

「爺さんが逝ったな」
「ああ」

年を重ねた貴族のほとんどは成り上がり騎士オリバーを嫌っていた。
しかし若者達は英雄オリバー・ダドリーの冒険譚を聞いて憧れを抱いていた。
この二人はそんな新世代の貴族であり、オリバー・ダドリー元帥の下で幾多の戦場を駆け巡った百戦錬磨の騎士だった。

静寂を嫌ってデイビッドは続ける。

「イングランドの盾は失われた。今なら挙兵してもまだ間に合うぞ」

代々ヨーク家はランカスター家の宿敵だった。
その身体に王に連なる血が流れているヨーク公ジョージに対し、デイビッドは「王位を狙わないのか?」と尋ねたのだ。

「僕が挙兵したら君はついてきてくれるのかい?」
「愚問だな」

デイビッドは無骨な戦士の手で自らの首を引いた。

「俺様自らお前の首を刎ねにいってやるよ。逆に聞くが俺が挙兵したらついてくるか?」
「愚問だね」

ヨーク公は親指を下にして答えた。

「お前の下につくくらいなら死んだほうがマシさ。一族の恥として伝記に書かれるのはまっぴらごめんだ」

ならば、とデイビッドは結ぶ。

「お前は俺がいる限り反旗を翻したところで成功しない。遺憾ながら情に厚い俺様も長年戦場を供にしたクソ野郎がいる限り王に弓引くことはできない」
「実に残念なことに同意見だ」
「なぁに、まだあのボウヤも幼いが仕えるには悪くなさそうだぞ」
「つまりお前はこう言いたいんだな。僕に一族を押さえつけて王の即位を邪魔させるな、と」
「話が早くて助かる」
「大体僕は大貴族としてあるまじきことに戦場でレスター伯と長くいすぎた。お陰で下らない宮廷闘争が丈に合わなくなってしまったようだ」
「東西南北、どこもかしこもキナ臭くなってきて良かったな。俺達が社交場で踊るにはまだ早そうだ」

老将の国葬で人々は願った。
激動の人生を送った彼が天国におわします神の腕に抱かれて心安らかにいられますように、と。

オリバー・ダドリーは3人の騎士を王に遺した。
一人は戦の天才デイビッド・ハウ。
一人は王の頭脳ヨーク公ジョージ。
そして最後の一人は自身の息子、未来の薔薇騎士レスター伯。

オリバー・ダドリーは孤高だった。
しかし孤独ではけしてなかった。

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同年、イングランドは対抗宗教改革を開始。
雪解けはすぐそこまで迫っている。

~ 宮廷歴史家 リチャード・ギボン著「冬の時代」 ~

犬と少年

「君のこと、知ってるよ」

少年は歩いていた茶色の短い毛並みを持つ犬に話しかけた。
犬は少年のほうに首だけ向け、少年の黒い瞳を覗き込んだ。
丸まった尻尾を一振りし、犬はこくりと頷いた。

「久しいな、ランカスターの者よ」

犬が喋るという非現実を前にしても少年は何ら驚かなかった。
彼は言葉通り知っていたのである。
英国君主のみが閲覧を許されている女王の回顧録によって。
少年は無邪気に微笑んだ。

「ははっ、書いてあった通り偉そうだ」
「偉そうなのではない、偉いのだ」
「まあなんでもいいよ。君を見ることが出来たから、僕は無事戴冠できるってことか」

少年は決定的な勘違いをしていた。
犬は嘆息し、正そうかと思ったが思い直した。
それこそどうでもいいことだった。

「王位なんて碌なものじゃないぞ」
「らしいね」
「覚悟はあるのか?」

口を三日月にして少年は答える。

「そんなの知らないよ。でも何とかなるんじゃないかな。僕は神に選ばれたらしいしね」

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西暦1534年4月2日。
16歳となったイングランド王ジェームズ1世はウェストミンスター寺院にて戴冠の儀を終える。
これを持ってイングラントを支え続けた摂政評議会は解散され、ジェームズ1世の治世が始まりを告げた。

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未だイングランド国内には宗教改革の嵐が吹き荒れていた。
だが真冬の寒さに震えて耐えるだけの時は終わり、孤高の騎士が指し示した光の下に反撃する時がやってきたのである…。

第三話 ~孤高の騎士が示す光~ 完

次回 第四話 ~西の冠を頭上に抱き、東の冠を抱えし者~ に続く。

第四話 ~西の冠を頭上に抱き、東の冠を抱えし者~


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Last-modified: 2014-03-29 (土) 02:25:00