AAR/華麗なる一族

第1章 ウェヌスの微笑み

前史

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この物語を始める前に少し前史について触れてみましょう。

初代ルドルフ一世が皇帝に推挙されたのは英邁な君主の器であると見抜かれたからではありません。
本命候補と目されていた当時のボヘミア王オットカル二世の伸長を選帝侯が忌避したいわば偶然の結果だったのです。
ルドルフ自身が寝耳に水で、皇帝選出の報を帝国の使者から聞いた時は悪い冗談だと思って激怒したという逸話が残っているほどです。

扱いやすい田舎領主だと思われていたルドルフは実はなかなかのやり手であり、ルドルフの皇帝選出に異を唱えた大領主ボヘミア王オットカル二世に怯むことなくこれを打ち負かすと、当時はボヘミア領になっていたオーストリア領を獲得しました。
これがオーストリアとハプスブルク家の繋がりが生まれた初めでした。

ルドルフ一世の息子アルプレヒト一世は皇帝に即位することには成功するものの、アルプレヒト一世が1308年に甥ヨハンに暗殺された後、ハプスブルク家は帝冠から遠ざかります。
帝国諸侯にとって、とりわけ特権的な地位を占める選帝侯国にとっては、皇帝は御しやすい弱小領主の方が都合がいいのです。

帝冠を失ったハプスブルク家は元の田舎領主に逆戻りです。
1315年、1386年の二度に渡って本領のスイスで大敗を喫し、その独立を承認せざるを得なくなります。
ハプスブルク家の悲願である帝冠を再び頭上に頂くには、実に130年もの間待たなくてはなりませんでした。

ハンガリーの王冠

ハプスブルク家当主フリードリヒは、1440年にフリードリヒ三世として皇帝に即位し、再びハプスブルク家は帝冠にもたらします。

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フリードリヒ三世

では、なぜ再び皇帝になることができたのでしょう。
ハプスブルク家が再び力をつけてきたからでしょうか。

いいえ。
皇帝であった往時の勢いを失ったハプスブルク家は選帝侯が警戒しなくてもよいほどに弱体化していました。
その上、当主のフリードリヒは才知に長けていたわけでもなく、人望を集めていたわけでもなく、風采の上がらない無力な男というのが衆目の一致するところだったのです。

しかし、フリードリヒ三世は自分の分を弁えているという点において愚かではありませんでした。
彼は皇帝の衣を纏っているからといって自分が万能の神になったわけではないことをよく自覚していたのです。

彼が最初に着手したのはハンガリー王家との婚姻でした。
自分はハンガリー王女を妃に迎え、ハンガリー王子には妹を嫁がせ、どちらかの血統が途絶えた場合は、相互に相手の所領を継承できるという契約も盛り込まれていました。

フリードリヒ三世が神聖ローマ帝国の外にあるハンガリー王家との強固な関係を築くことを優先したことを嘲笑するものも少なからずいたといいます。
しかし、この政策は多くの実りをハプスブルク家にもたらすことになりました。

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ハプスブルク家はハンガリー王家の王位を手にすることになったのです。
ハンガリーを同君連合におさめたオーストリアの名声の高まりを受け、バーデン及びウィッテンベルク両国が属国化に同意した後にオーストリア領に併合されました。

フィリップ突進公

15世紀のブルゴーニュはヨーロッパの最先進地域でした。
毛織物産業の貿易で豊かになったフランドル地方を押さえたこの国は中世の華と呼ぶに相応しい煌びやかさでヨーロッパ中を魅了していました。

ヨーロッパの多くで夜盗が野放しになっていて、犯罪者の処罰も領主の裁量次第といった具合にだったにも関わらず、ブルゴーニュでは裁判所がきちんと機能し、発達した商業の元で複式簿記が普及していました。
経済的繁栄を手にしていたブルゴーニュ公フィリップが喉から手が出る程欲しがっていたもの、それは「王」の称号でした。
どれだけ栄華を誇っていたとしても、ブルゴーニュ「公」国の当主でしかなかった彼は、少なくとも形の上ではフランス王に臣従せざるを得ない立場にあり、自分一人で王を名乗ったとしても、それでは国際的な承認が得られるはずもありません。

ブルゴーニュにもハプスブルク家の勢力を伸ばしたいと考えていたフリードリヒ三世はブルゴーニュ公の一人娘マリー・ド・ブルゴーニュと自分の後継者レオポルトを婚姻させたいと考えていましたが、フィリップ突進公は自分をローマ王に推挙するならば縁組を認めてよいと返答します。
ローマ王というのは、神聖ローマ帝国の後継者が名乗る称号であり、つまりは自分を次期皇帝にしろ、というのに等しい要求です。

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マリー・ド・ブルゴーニュ

そもそも皇帝に即位するためには選帝侯国の支持が不可欠であり、仮にそれが不要だったとしても、ハプスブルク家の皇帝世襲を目指しているフリードリヒ三世からすればそれは無理な相談でした。
しかし、フリードリヒは真っ向から要求を撥ねつけるのではなく、少し考えさせてほしい、とすぐには返答をしませんでした。
彼は辛抱強く待つことで状況が好転することが往々にしてあるのを良く知っていました。

フリードリヒ三世がのらりくらりと返答を引き延ばすのに苛立ったフィリップはカスティーリャと手を組み、リエージュ司教領へ領土的野心を剥き出しにして襲い掛かります。
実力を見せつけさえすれば、フリードリヒ三世も自分に従うようになるであろうという突進公らしい短慮の結果でした。

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フリードリヒ三世自身は軍才に乏しく、前線で兵を率いて兵たちを鼓舞することはできませんでしたが、小心とあちこちで陰口を叩かれていた彼はこうした時にも備えを怠っていませんでした。
すなわちフランスとの対ブルゴーニュ密約です。
ブルゴーニュがフランスもしくは帝国どちらかに宣戦した場合には共同で防衛にあたると合意がなされていたのです。

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フィリップ個人は武勇に優れた将軍でしたが、さすがにオーストリアとフランスに挟撃されたのでは、戦略的劣勢を覆すことはできません。
ほぼ全土が両軍に占領される事態になりました。

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この戦争でオーストリアはフランシュ=コンテとフランデレンを、フランスはヌヴェールをそれぞれブルゴーニュから割譲させました。

自信家のフィリップは自身が馬鹿にしていたフリードリヒ三世に敗れたことに大きなショックを受けました。
しかし、フリードリヒ三世に代わって陣頭で指揮を執った皇太子レオポルトには騎士の理想像を見出して惚れ込み、最終的に何の条件もつけずにレオポルドと娘マリーの婚姻を認めました。それからしばらくすると戦場での傷がもとで亡くなりました。

ブルゴーニュ継承戦争

レオポルドとマリアは政略結婚で成立した夫婦ではありましたが、お互いを深く愛するようになりました。
しかし、マリアが早逝すると元来独立気質が強いフランドル地方は一致団結してハプスブルクの支配に抵抗します。

フリードリヒ三世は同君連合の維持を名目に再びブルゴーニュに宣戦しました。

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ここでもフランスとの対ブルゴーニュ同盟が効いて、ブルゴーニュは再びほぼ全土を占領されます。
オーストリアの全面勝利により、ブルゴーニュはハプスブルク家の支配を受け入れることをしぶしぶ承諾しました。

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しかし、これに異を唱えたのがフランス王でした。
フランス王からすればリエージュ防衛戦争のときのように、フランス王にも分け前があって然るべきというのです。

しかし、ハプスブルク家の言い分は違います。
前回はあくまでリエージュをブルゴーニュの侵攻から防衛するための戦争であって、勝者が領土を割譲させるのは理に適っているが、今回はあくまでブルゴーニュの継承問題であり、ハプスブルクがその正当な支配権を確定させたに過ぎない、と。

フランスはこの言い分を聞くと激昂して使者を怒鳴りつけたと言います。
オーストリアに同盟の破棄を通告し、ブルゴーニュ公はフランス王の家臣であったのだから、その領土の宗主権はフランス王に属する、とハプスブルク家の支配を真っ向から否定し始めました。

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フリードリヒ三世はイベリアンウェディングによりアラゴンを同君連合下におさめたカスティーリャと同盟を結んでこれに対抗します。
フランスも負けじと、オーストリアの勢力拡大に危機感を抱いたバイエルン及びヴェネツィアと同盟を締結しました。
以後のヨーロッパ情勢はフランスとオーストリアの対立を軸に展開していくことになります。

さて、フリードリヒ三世の婚姻政策はハンガリー及びブルゴーニュと同君連合を形成するという大きな成果を上げました。
運が良かっただけだとか、戦場の華々しい武勲によるものではないだとか陰口を叩くものいましたが、言わせておけばよいのです。
マルスの加護よりもウェヌスの微笑みの方がずっと多くのものをもたらしてくれるのですから。

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第2章 中世最後の騎士


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Last-modified: 2014-10-05 (日) 15:13:57